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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(も)2号 決定 1953年9月07日

主文

本件各請求を棄却する。

理由

本件請求の理由は、弁護人永野柳造提出の、別紙刑事補償請求申立書記載のとおりであるが、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一件記録を検討するに、請求人等両名が他の五名と共謀の上婦女を強姦したとの所論被疑事実につき、告訴の取消があった後右強姦の手段としての共同暴行の事実のみが暴力行為等処罰に関する法律違反として起訴されたこと、右事件につき請求人等が所論の期間勾留せられたこと、第一審福島地方裁判所平支部は右起訴事実は強姦罪の構成要件の一部であるから、強姦の点につき告訴の取消があった以上、右起訴事実についても公訴権は消滅したものとして公訴棄却の判決をしたこと、検事控訴の結果、第二審仙台高等裁判所は、これに反し有罪の判決をしたこと、請求人等上告の結果、当裁判所は、右判決を破棄し、右両名に対し公訴棄却の判決をしたことは総て所論のとおりである。

ところで、刑事補償法二五条によれば、公訴棄却の裁判を受けた者が、国に対して、抑留若しくは拘禁による補償を請求することができるのは、もし公訴棄却の裁判をすべき事由がなかったならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由がある場合に限られることは明瞭である。

然るに前記当裁判所の判決において、公訴棄却の理由として判示するところは、要するに、請求人等の前記の如き婦女強姦の事実は、証拠上これを明認し得るけれども、起訴にかかる暴力行為等処罰に関する法律違反の事実は、右強姦行為の手段としてなされた共同暴行の事実であるから、強姦の事実につき、既に告訴の取消があった以上、強姦罪として公訴を提起し得ないことは勿論右暴行行為のみを抽出してこれが公訴を提起することも許されないというにあることは明白である。即ち前記当裁判所の判決は、請求人等の前記強姦の事実につき、告訴の取消があったことを理由として、その強姦の手段としての共同暴行に対する公訴を棄却しているのであって、右の如き告訴の取消がなかったとすれば、たとい起訴にかかる事実が強姦の手段としての暴行行為のみについてのものであっても、裁判所は当然強姦罪としてこれを審判し、有罪の判決を言渡すべきものであったことは、右判決の全趣旨に徴し疑を容れないところである。

してみれば、本件補償の請求は、前記刑事補償法二五条の許容する場合に当らないから、同法一六条によりこれを棄却すべきものである。

よって裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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